〈事例3〉-監護権者たる日本人妻の在留資格がなくなった場合 外国で外国人の夫Aと婚姻した日本女性Bとの間には長女C(3才)と長男D(1才)がいる。最近Aの不貞等が原因でAとBの折り合いが悪く離婚することになり、BがCとDの主たる監護権者となり、AはCとDとの面会交流権を得た。Aはその後愛人Eと再婚したが、CとDの養育費は適時に支払っていた。その外国では離婚後もAとBはCとDの共同親権を有することから、C、Dの転居にはAの同意を必要とすることになっており、AはC、Dの州外への移住には同意できないと言っている。しかしBは離婚により配偶者ビザを失うところ、その外国ではその国の国籍(CとDは日本とその外国の両国籍を有する)を有する子を養育する外国人親に特別な在留資格を認めていないので、Bは在留期限が来ると同国から退去せざるを得ないことになった。BはCとDを同国に残したまま帰国することはできなかったので、Aの同意を得ることなく、CとDを連れて日本に帰国し実家に3人で身を寄せている。AはCとDとの面会交流権に基づき、直ちにC、Dの返還を求めて来た(Aは面会交流が確保できれば親権ないし監護権はBに譲ってよいと考えていた)。
ハーグ条約の下では、BはCとDをその常居所地国であるその外国に返還しなければならないことになる。BはC、Dと一緒に渡米しても在留できないだけでなく、刑事犯罪人として処罰される可能性がある。本件のような場合、特にBがC、Dの主たる監護権を有する場合には、調停等の手続でAとC、Dの面会交流を確保することによりC、DがBと共に日本で生活することができるよう調整することが望ましい。
〈事例4〉-日本で離婚、再婚、養子縁組がされている場合 外国人の夫Aとその外国に居住している日本人妻Bとの間には長女C(3才)がいる。AはCを目の中に入れても良いほど可愛がっていた。ある時、東京で大学時代の同窓会に出たBはかつての恋人Dと再会した。Dはまだ独身であった。外国に戻ったBはAに対し、Cに日本語を覚えさせたいから夏の間Cを連れて日本の実家に帰りたいと申し出てAの了解を得た。そこでBはCを連れて一時帰国したが、その際Aに対し、Cを日本の保育所に入れるのに父のサインが必要だからと言って書面にサインをさせた。その書面は離婚届であった。Bは日本に帰るとCの親権者を母として離婚届出をした。その後Bは離婚したことをDに伝え、2人の交際が再開した。秋になっても自国にBとCが帰って来ないのでAからBに対し帰国を促す手紙や電話が届いたが、ようやくBはAに離婚したいことを伝えた。AはBとの関係を修復しようと言い、とにかくCを連れて戻って来てほしいと頼み続けたが、離婚届から6ヶ月の待婚期間が経過後BはDと再婚し、CをDの養子とする手続を終えた(民法第797条1項により戸籍上の法定代理人たる母が15才未満の者の養子縁組の承諾をすることができ、かつ、民法第798条により配偶者の子を養子とする場合には家庭裁判所の許可は不要)。半年以上たっても戻って来ないので、Aは何枚ものCの写真を胸に日本に来てBとCに会おうとしたが、会えたのはBの両親だけで、BはDと再婚し、CはDの養子になったことを告げられた。腰を抜かさんばかりに驚き、悲しみ、怒ったAは離婚無効を主張すると共に直ちにCの返還を求めた。
Aに離婚する意思は全くなかったのであるから、理論上は離婚は無効であり、ハーグ条約に基づく返還請求があれば、返還せざるを得ないことになる。しかし、日本の戸籍上は離婚届がなされ、その後に婚姻届と養子縁組届がなされているのであるから、まず、離婚は無効であること、従ってその後の婚姻届と養子縁組が無効であることの確認判決を確定させることが先決となるが、最高裁まで争われるとその確定までには数年要することもある。訴訟ではBは、「Aには離婚届であることを伝えてサインを求めた」と主張するであろうからである。AはBがCを連れて帰国後1年以内に返還請求をしているが、仮にAが勝訴判決を得たとしても、日本国内の訴訟確定まで数年を要することになるので、返還命令は数年経過後の請求となる。その間にCがB、Dとの家族として新しい環境での生活に適用しているとの主張をされると困難な事態になる。このような場合は調停等の手続でBからAに慰謝料を支払い「無効な離婚の追認」をしてもらうことにより解決せざるを得ないのではないか。
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