「面会交流」の支援も必要
従って、ハーグ条約による子の返還請求があっても、両親の話し合いにより連れ去られた親(多くの場合父親)にとって、子と何時でも電話やメールで連絡がとれ夏休み等に子が訪ねて来てくれ一緒に過ごす等の親子としての交流が保証されれば満足する場合が多くある。
むしろ仕事で多忙な父親にとっては子が帰って来ても日常の世話をしたり、保育園の送迎等大変なことになる。このような場合に両方の親の話し合いにより、子の犠牲を最小限にするためにお互いが譲歩すれば友好的解決はできるはずである。
また、任意の返還をすることになった場合にも、子と母親との電話やメールでの交信、夏休み等の母親のところでの長期滞在等を保証すれば、返還命令のように双方の対立感情を増幅させることなく問題を解決することができる。かかる意味で、ハーグ条約の下で「子の最善の利益」を確保する方法は、「返還命令」ではなく国際家事調停による「友好的解決」の促進と「面会交流」の支援であるといえる。
そのためには、わが国に常設の国際家事調停機関を設け、諸外国において行われているハーグ条約の下での子の連れ去り問題のための国際家事調停(例えばイギリスのReunite等)のように、より当事者の対立を深めることになりうる返還命令の裁判手続だけでなく、当事者の話し合いで離婚、親権(監護権)、養育費、面会交流権、教育、刑事免責協力等あらゆる問題を友好的に解決する場を設けることが必要である。そのためには、日頃から国際的な面会交流を活発にさせ、ハーグ条約に基づく申請があった場合には、まず国際家事調停を勧め、調停が不調となった場合にのみ裁判手続きを進めるという運用を確立することが望ましい。しかも、裁判手続のどの段階であっても、かつ何度でも調停による友好的解決の試みが認められるべきである。
日本国内には家庭裁判所による家事調停や弁護士会等のADRが制度として存在し、これらは当事者双方に日本の弁護士が代理人についている場合には機能するが、外国人の父が日本にいる妻子と直接面会し、話し合うために来日したような場合には、平日の夕方(妻が生活のために働いている場合)、土・日・祝日等にも集中して調停を行なったり、時には外国人と日本人の調停人が協力して、外国語で調停を進めることが望ましい場合もありうる。このような場合にも対応するために既存の調停機関とは別の国際家事調停機関の設立が必要なのである。
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